徐徐の女

 むかし、むかし、あるところに、四人もの子を産み落とし、そろそろ老女とよばれる年頃に近づいた夏枝と言う女が居ったそうな。春爛漫で有った。寺の境内は桜吹雪が舞って居った。
 女が寺に詣でた帰りの事、薄汚い姿の老僧が近づいて来て。
「其方はもう子供は産まぬのか」
「阿呆な事言わんといて、此の歳でややを産んだら、恥を掻きますがな」
「其方の顔に男の子が授かる相が出て居るがなあ」
 健太郎の母は其の話を聞いてから、急に色気憑いてしまったので有る。息子の健太郎に迄で色目を使う始末で有った。良い歳しを放いて呆れた者で有った。
 或る休日に健太郎意が座敷で昼寝をして居ったら、母者はふざけて添い寝をして居った。
「母上、御戯れを」
「良いでは無いか、親子では無いか、御乳を触らして上げる」
「母上、色狂いなされたか」
「其方ももう大人じゃ、何時縁談が舞い込んでも可笑しく無い年頃じゃ、他所の娘には悪さをするで無いぞ、悪さをしたくなったら、私に致すが良い、又、尿がしと成った」厠に駆け込んので有った。
 健太郎は暫しの間、母の奇行に開いた口が塞がら無かった。
「父上、最近の母上は少し可笑しいとは思いなされませぬか、ひょっとしたらやや子が欲しいのでは」
「真逆」父は何時、優柔不断で有った。
「何やら、盛りの憑いた猫みたいに、息子の私に迄、色目を使うありさまですです」「真逆」
 老僧は罪な事を言ったもので有る。母は父に交接を強要したので有る。父も歳で有った、疲れて居った「母上、厠に行きたいのなら行かれれば良いのに、そんなに我慢なさっては粗相をしてしまいますぞ」
「歳行って来るとな、締まりが無く成ってな、困った物じゃ。我慢して鍛えて置かんとな」
 其の淫らな様子と言ったら。人に言えな無い恥ずかしい快感に浸って居ったので有るに違い無かった。 健太郎が風呂に入って居ると。
「背中を流して上げる」母が入ってきてしもうた。
「恥ずかしがらずとも良い、親子でないか」「健太郎ももう立派な大人じゃのう、大きく成った物じゃ」「御乳を見せて上げようか、触っても叱ったりは致さぬぞ」
「あそこに触らして上げる」母は健太郎のて取って前に当ててしまった。
 と其の時で有る。母は事も有ろうに我慢して居った尿を粗相をしてしまったので有る。
「誰にも言うで無いぞ、私は恥ずかしい」恥ずかしさの余り母は放心気味で有った。
 健太郎も可笑しく成ってしまい。母親と交接してしもうたので有る。罰当たりな。犬畜生で有る。
 母は身篭り、腹が膨らんで来てしもうた。善からぬ噂が村中に広まってしもうたので有る。
 或る日、健太郎に突然縁談が舞い込んだ、其の娘と言うのは其れは其れは元気な娘で有った。
「わての縁談の相手と言うのは御前か、母者と盛って孕ませた、犬畜生と言う噂は本当か此の阿呆たれ。此れでも食らえ」いきなり健太郎を引っ叩いてしもうた。
「今度同じ事を仕出かしおったら、拳骨で殴ったる」いやはや怖い怖い娘で有った。天罰覿面で有った。 其の娘の下品な事と言ったら、健太郎の前でも、鼻はかむは、屁は放は、慎みと言う物が無く。如何やら、他所の家と自分の家の区別が付か無いらしい。
「あんな女と儂は結婚せねば成らぬのか」健太郎は父に泣き付いた。
「此の縁談を断る事等出来ん。恥ずかし乍、我が家の家計は火の車じゃ、色々と世話に成って居るのじゃ心配致すな、悪い噂の御蔭で、其の内向こうから断って来るで有ろう」「其の様な悠長な事を」
 茹だる様な真夏の午後で有る。祖母の五十回忌の法事で嫁いだ三人の姉達は帰って来ては。
「母様たらみっともんない、良い歳放いて」娘達は散々愚痴を零し倒した。
 娘は嫁御に成った積もりか時々勝手に家に上がり込んだりするので有った。健太郎の意向等無視しし。「あんたが冬子か、物好きやね」
 健太郎は疲れて自分の部屋で横に成って居ったら、娘が遣って来て。
「わても寝よっと」健太郎は何を思ったのか娘の御乳を触ってしもうた。
「何時まで御乳を触って居るのじゃ」「叱ったりはせんのか」以外で有ったのか。
「其方、わてが断るのを待って居る様じゃが、わての方から断ったりせんぞ、安心せい、何ぼ阿呆で、犬畜生の男でも、女の方から断る訳には行かぬぞ」
「おならが出そうに成った。此処でしてしもうても良かか」下品な事をするのが楽しいので有った。
「羞恥心等無いのか」「其方が好きで好きで堪らん様に成ってしもうた、嫁に貰って御呉れ」
「私は母者に負けとう無い、母者にした様にして御呉れ、打ったりはせぬ。前を触っても叱ったりはせぬ」娘は男の手を前に入れてしもうた。女は粗相をしてしもうた。
「今、何をし居ったのじゃ」「又、尿をこいてしもうた」
「何んと言う下品な女子じゃ、御仕置きをしてやる」健太郎は冬子を後ろからおかしてしもうた。
「母者にも此んな悪さをし居ったのか」
 冬子もややが出来てしまい、腹の膨らみが分からぬ内に慌てて祝言を挙げてしもうた。
 母の夏枝は男の子を産み落とし、嫁御の冬子は女の子を産み落とした。共に五体満足な元気な御子で有った。健太郎は母が八十二歳で亡く成るまで其れは其れは大事にしたそうな。しかし、健太郎は生涯七人もの子を産み落とした冬子の尻には敷かれっぱなしで有った。


              2005−07−31−55−OSAKA



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